北海道の赤い羽根使途不明金!告訴されないなら告発はできるか

事件・不正
この記事は約7分で読めます。

北海道の赤い羽根使途不明金!告訴されないなら告発はできるか

「赤い羽根共同募金」を運営する北海道共同募金会(札幌市)で、寄付金などが使途不明になっている問題は、公表から4か月近くたった今も刑事告訴に至っていない。募金会の説明では、会計業務を事実上1人で担っていた元事務局長(懲戒解雇)が、2020年ごろから着服を繰り返した疑いがあるという。10月1日には今年度の募金運動が例年どおり始まったが、刑事責任を問う手続きは「検討」の段階にとどまっている。本記事では、告訴が進まない経緯、公訴時効との関係、被害者以外による告発という仕組みを、公表資料と報道をもとに整理する。

まず、この問題の規模と期限にかかわる数字を確認しておく。

項目 数字 根拠
使途不明金の総額 約2億5千万円 北海道共同募金会の9月16日の会見(共同通信)
偽造議事録などによる金融機関からの借り入れ 約1億9千万円(道内2か所) UHB(2026年8月18日)
業務上横領の公訴時効 7年 刑事訴訟法250条2項4号
第三者委員会の調査報告書 2027年1月末をめどに提出予定 北海道共同募金会(2026年9月10日)

借り入れの額は報道によるもので、募金会の公式サイトでは確認できていない。

金額の大きさに目が向きがちだが、本記事で注目したいのは下の2行だ。時効の期間と第三者委員会の報告時期を並べると、告訴の判断を先送りできる余地は、思われているほど大きくない。

使途不明金問題で刑事告訴が進まない経緯

刑事告訴について、募金会の説明は時期によって表現が変わってきた。

発覚から現在までの時系列

時期 動き・説明 根拠
2026年2月17日 札幌国税局が、事務局長(当時)への所得税法違反の嫌疑で査察。会計資料のほとんどが押収された 北海道共同募金会のお知らせ
2026年6月 使途不明金を公表。事務局長を懲戒解雇する方針とともに、刑事告訴も検討していると説明 HTB
2026年7月 元事務局長を懲戒解雇 北海道共同募金会
2026年7月22日 札幌市が特別監査を経て、業務改善を求める行政指導を文書で行ったと報道 北海道新聞
2026年8月 元事務局長が偽造した理事会議事録などを示し、道内の金融機関から借り入れていたと報道。募金会は刑事告訴などをする方針と伝えた UHB
2026年9月16日 新たな使途不明金を公表し総額が拡大。着服の疑いについて刑事告訴を検討していると報道 共同通信
2026年10月 元事務局長の件は、第三者委員会に調査が委ねられている状況と報道 FNN

報道各社の表現をもとに当サイトで要約した。共同通信・FNNの記事は配信先のページを本記事からは確認できなかったため、リンクは掲載していない。

懲戒解雇はしたが告訴は「検討」のまま

8月には「方針」と報じられたものが、9月の会見では再び「検討」に戻っている。その間に金融機関からの借り入れという新たな疑いが報じられたにもかかわらず、告訴には踏み切っていない。

募金会側の事情として、国税局の査察で会計資料のほとんどが押収されたことは、募金会自身が公表している。資料が手元にないなかで、被害額や行為を特定して告訴状をまとめるのが難しい面はあるだろう。

ただし募金会は、着服の疑いを理由に元事務局長をすでに懲戒解雇している。解雇に踏み切るだけの判断材料がありながら、告訴については結論を出していないことになる。

第三者委員会の報告を待つ構図

9月には、弁護士と公認会計士で構成する第三者委員会が発足した。募金会の公表によると、調査事項には元事務局長の関与と法的責任に加え、役員・元役員の関与と責任も含まれる。告訴の判断を報告書まで待つと明言した資料は見当たらないが、10月の報道を見る限り、実質的にはその流れにあると読める。

業務上横領の公訴時効と起算点

告訴の判断を急ぐべきかを考えるうえで欠かせないのが、公訴時効だ。一定の期間が過ぎると、検察は起訴できなくなる。

時効を止めるのは告訴ではなく起訴

業務上横領の法定刑は10年以下の拘禁刑で、刑事訴訟法の規定により公訴時効は7年になる。時効は犯罪行為が終わった時から進み、止めるのは起訴(公訴の提起)だ。告訴をしただけでは時効は止まらず、そこから捜査、送検、起訴までの時間も必要になる。

繰り返された着服の時効はいつから数えるか

問題は、着服が数年にわたって繰り返されたとされる点だ。繰り返された横領の時効の数え方には、次の2通りの考え方がある。

扱い 時効の数え始め 本件に当てはめた場合の目安
1回ごとに別々の罪 それぞれの着服が終わった時点 2020年ごろの初期の分から、2027年ごろ以降に順に時効を迎える可能性
まとめて一つの罪(包括一罪) 最後の着服が終わった時点 最後の行為から7年後まで

どちらに当たるかは、行為の間隔や意思の継続性などをもとに捜査機関や裁判所が判断する。本記事の法制度に関する説明は一般的なものであり、個別の事案について法的な判断を示すものではない。

包括一罪と認められるには、行為が日時や場所の面で近接していることなどが必要とされ、長期間にわたる場合は判断が分かれる。仮に1回ごとの罪として扱われれば、最も古い分の時効は、第三者委員会の報告書が出る時期とほぼ重なる。

第三者委員会の報告と時効の時期が近い

「2020年ごろ」は募金会の説明で、最初の着服の正確な時期は公表されていない。実際の期限は、さらに早い可能性もある。

着服が始まったとされる時期から、第三者委員会の報告予定、初期分の時効までの年表2020年ごろ着服が始まったとされる(募金会の説明)2026年2月札幌国税局が査察2026年6月使途不明金を公表、刑事告訴を検討2026年7月元事務局長を懲戒解雇2026年9月第三者委員会が発足、告訴は検討のまま2027年1月末第三者委員会の報告書の提出予定2027年ごろ〜初期分が時効を迎える可能性(1回ごとの罪の場合)着服の疑い発覚後の動き今後の期限

では、募金会が告訴をしない限り、刑事手続きは動かないのだろうか。

被害者でなくても告発はできる

被害者が捜査機関に処罰を求めるのが「告訴」、被害者以外の人が求めるのが「告発」だ。

誰でもできる告発と親告罪でない横領

刑事訴訟法239条1項は「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めている。業務上横領は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪ではない。募金会が告訴しなくても、告発などをきっかけに捜査や起訴に進むことは、制度上可能だ。

公務員の告発義務と札幌市・国税局

同じ条文の2項は、公務員に対し、職務を行う中で犯罪があると考えたときは告発しなければならないと定めている。本件では、次の機関が当事者または監督・調査の立場でかかわっている。

機関 本件とのかかわり 告発・告訴の状況
札幌市 北海道共同募金会への特別監査を行い、文書で行政指導をしたと報道(北海道新聞) 告発の有無は報じられていない
札幌国税局 事務局長(当時)への所得税法違反の嫌疑で査察。査察は、脱税の疑いが固まれば検察への告発につながる手続き 結果は報じられていない
道内の金融機関 偽造議事録などによる借り入れを受けた側。募金会は金融機関への詐欺の疑いもあるとみていると報道(STV) 被害申告の有無は報じられていない

2026年10月5日時点で当サイトが確認できた報道・公表資料に基づく。

特に札幌市は、監査で会計の実態を確認する立場にある。監査の過程で着服の疑いを把握したのであれば、公務員の告発義務との関係が問題になり得る。

一般の市民が告発する場合の壁

一方で、一般の市民が告発するハードルは低くない。捜査機関は、日時や方法、金額などが特定されていない告発を受理しないことが多い。本件の会計資料は国税局に押収されており、公開情報だけで告発状をまとめるのは難しい。刑事手続きを動かせる立場にあるのは、事実上、募金会、札幌市、国税局、金融機関に限られるのが実情だ。

原因究明を待つあいだに失われるもの

第三者委員会の目的は、原因の究明と再発防止策の提言だ。刑事手続きとは別の仕組みであり、報告書を待たなければ告訴できないわけではない。現に募金会は、着服の疑いを前提に懲戒解雇という判断をすでに下している。

そのうえで募金会は、10月から今年度の募金を集めている。寄付をする側から見れば、何が起きたのかは来年1月末まで分からず、誰が責任を負うのかは刑事・役員責任ともに決まっていない。その間にも、時効の期限は報告書の時期と重なるところまで近づいている。

告訴をいつ判断するのか、札幌市や国税局がどう対応しているのか。この2点が示されない限り、信頼回復を掲げた募金の呼びかけは説得力を持ちにくい。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました