制度・問題点

赤い羽根募金は「任意」のはずが強制。自治会費天引き問題の実態と断り方

制度・問題点

赤い羽根共同募金は本当に任意か。強制徴収の実態と判例を検証する

社会福祉法第116条はこう定めている。「共同募金は、寄附者の自発的な協力を基礎とするものでなければならない」。赤い羽根共同募金は法律上、完全な任意の寄付だ。しかし全国の多くの地域では、自治会費への上乗せ・班長による戸別徴収・目安額の設定という形で、事実上の強制が行われている。本記事では、強制徴収の実態・裁判判例・法的根拠・断り方まで詳しく解説する。

法律が定める「任意原則」——共同募金会自身も認めている

社会福祉法第116条の全文はこうだ。

共同募金は、寄附者の自発的な協力を基礎とするものでなければならない。

中央共同募金会も公式ウェブサイトで「募金への協力はあくまで自発的な意思によるものです」と明記している。寄付を断っても何ら問題はなく、断ったことで不利益を受けてはならない。これが制度の建前だ。

しかし現実は、この「建前」とかけ離れた形で募金が集められている地域が全国に多数存在する。

強制徴収の3つのパターン

全国で確認されている強制的な徴収の形態は、主に3つに分類できる。

パターン①:自治会費への上乗せ

最も徹底した強制形態だ。自治会費の中に赤い羽根共同募金・赤十字・歳末助け合い募金などが最初から組み込まれており、自治会費を払った時点で自動的に募金したことになる。本人の意思確認はない。

令和6年度(2024年度)から、ある地域では「組長(班長)が集金に回る負担を減らすため」という理由で、従来の戸別徴収から自治会費への組み込み方式に切り替えた事例がある。組長の負担軽減という名目だが、住民にとっては「断る機会」すらなくなったことを意味する。

パターン②:班長・組長による戸別徴収

自治会の班長・組長が1軒ずつ回って集金する方式。「目安額」として300円・500円などの金額が設定された封筒を渡され、住民はその封筒に入れて班長に渡す。断ることは「技術的には可能」だが、近所の人間関係を考えると断りにくいという同調圧力が働く。

問題は集める側にも生じている。当番で班長になった住民は、多忙な中で留守宅に何度も足を運び、なかなか集金できない場合は催促まで行わなければならない。世田谷区議会ではある議員がこの問題を取り上げ、「募金集めが苦しい。どうにかならないか」という住民からの相談を紹介した。

パターン③:職場・学校での徴収

職場では総務部門が従業員から一括徴収し、まとめて納める「職域募金」が行われることがある。上司の目がある中で「出さない」とは言いにくい雰囲気が生まれやすい。学校でも児童・生徒を通じた徴収が行われてきたが、近年は減少傾向にある。

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世田谷区議会での問題提起——役所が自治会を「便利使い」している構造

2023年1月、東京都世田谷区議会でこの問題が正式に取り上げられた。区議・冷水ひえしま進氏は、区の募金徴収の仕組みを以下のように指摘した。

赤い羽根共同募金の事務局は東京都共同募金会だが、その事務が世田谷区役所の生活福祉課に置かれている。生活福祉課が各地域のまちづくりセンターに連絡し、まちづくりセンターが町会・自治会に募金活動を「お願い」する——という流れになっている。

つまり本来は民間の自発的な募金活動であるはずのものが、行政→まちづくりセンター→自治会という経路を通ることで、「行政から言われてやること」という性格を帯びてしまっている。議員はこれを「役所と自治会の癒着」と表現し、募金は各団体が直接区民に訴える体制に変えるよう要望した。区は「見直すよう検討したい」と答弁した。

大阪高裁・最高裁で「違法」が確定した判例

自治会費への上乗せによる強制徴収は、すでに裁判で違法が確定している。

2007年8月24日、大阪高等裁判所は滋賀県甲賀市の自治会が赤い羽根共同募金・赤十字社費等を自治会費に上乗せして強制徴収するとした決議について、「会員の思想信条の自由を侵害するものであり、公序良俗に反し無効」と判決を下した(平成18年(ネ)第3446号)。2008年4月3日、最高裁判所は上告を棄却し、この判決が確定した。

裁判所が示した判断の論理は以下の3点だ。

① 自治会は様々な価値観を持つ会員の集合体 自治会は地域住民で構成されており、その思想・信条・宗教・価値観は多様だ。自治会費という強制的な形で特定の団体への寄付を一括徴収することは、この多様性を無視した強制に当たる。

② 自治会脱退は「事実上困難」 自治会は任意加入の団体だが、脱退すれば地域のゴミ収集・回覧板・地域行事などのサービスを受けられなくなる可能性がある。このため「脱退の自由」は理論上存在しても、事実上制約されている。この状況で自治会費への上乗せを強制することは、居住の自由も侵害しうる。

③ 個人の思想・良心の自由を侵害する 日本国憲法第19条が保障する思想・良心の自由は、「どの団体を支援するか」「どこに寄付するか」という内心の自由も含む。自治会を通じた強制徴収はこの自由を侵害する。

総務省もこの判決を自治会運営に関するガイダンス文書で紹介し、「自治会等が会費に上乗せして強制的に徴収することは問題がある」という見解を示している。

不当寄附勧誘防止法との関係——消費者庁も「適用される可能性が高い」と回答

2022年に施行された「不当寄附勧誘防止法」(法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律)との関係も問題になっている。

参議院議員・浜田聡氏(当時NHK党)の事務所には、「自治会費から知らぬ間に赤い羽根に寄付されている」という相談が複数寄せられた。これを受けて厚生労働省と消費者庁に対して質問を行い、以下の回答を得た。

消費者庁の回答(要旨):

赤い羽根共同募金は、個人が無償で財産に関する権利を移転または財産上の利益を供与する行為であり、不当寄附勧誘防止法上の「寄附」に当たる可能性が高いと考えられる。自治会や町内会等について、「法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めがあるもの」に当たる場合は、不当寄附勧誘防止法の規制を受けることとなる。

つまり、自治会が「管理人(会長等)の定めがある」団体であれば、不当寄附勧誘防止法の適用対象となり得る。同法は、困惑させる行為・退去妨害・不安をあおる行為などによる寄附勧誘を禁止している。自治会を脱退しにくい状況を利用した実質的な強制徴収は、同法に抵触する可能性がある。

浜田議員はさらに第217回国会でも質問主意書を提出し(第127号)、この問題を継続して追及している。

強制徴収が生み出す3つの弊害

強制的な募金徴収は、本来の募金の目的を損なうだけでなく、以下の弊害を生んでいる。

① 自治会の加入率低下 「自治会に入ると強制的に募金させられる」という認識が広がり、自治会への加入を避ける住民が増えている。都市部を中心に自治会の組織率は年々低下しており、地域コミュニティの弱体化につながっている。

② 班長・組長の負担増加 集金係になった住民は、留守宅への複数回訪問・催促・金額不足時の対応など、本来自分とは無関係な負担を負わされる。「当番が苦痛で自治会を辞めたい」という声は全国で聞かれる。

③ 募金の「善意」が失われる 強制されて払う寄付は「善意」ではない。社会福祉法が「自発的な協力を基礎とする」と定めたのは、募金が自発的な善意によってこそ意義を持つからだ。強制徴収は募金制度そのものの精神を内側から壊している。

自治会加入率の低下——強制徴収問題と無関係ではない

総務省「自治会等に関する市区町村の取組に関するアンケート」(令和4年2月公表)によれば、毎年度の加入率を世帯単位で把握している600市区町村の単純平均は、平成22年度(2010年度)の78.0%から令和2年度(2020年度)の71.7%へと、10年間で6.3ポイント低下した。強制徴収への反発だけが原因とは言えないが、「自治会に入ると募金を強制される」という認識の広がりも、要因の一つとして無関係ではないとみられる。

共同募金総額も減少傾向

共同募金の実績額は、制度発足以来伸び続けてきたが、平成7年度(1995年度)以降は減少傾向にある。厚生労働省の資料によれば、平成18年度(2006年度)の募金額は約217億円だった。強制的な集め方への反発が、任意であるはずの募金離れを後押ししている可能性がある。

断ることはできるのか——法的には完全に可能

断ることは法的に完全に可能だ。以下の点を押さえておくとよい。

自治会費への上乗せの場合 自治会の総会や役員会で「募金分は自治会費から切り離してほしい」と要望することができる。大阪高裁・最高裁判決により、上乗せ徴収は法的に無効であることが確定している。「判決を根拠に分離を求める」という主張は正当だ。また、自治会費の募金分を支払わないことも法的には可能だが、実際には摩擦が生じる場合がある。

班長による戸別徴収の場合 「今回は遠慮します」と伝えるだけでよい。それ以上の説明義務はない。「なぜ断るのか」と問われても回答する義務はなく、断ったことで不利益を受けてはならない。

職場での徴収の場合 「今回は参加しません」と伝えることができる。職場の募金は完全に任意であり、不参加を理由に不利益な扱いを受けることは違法だ。

長野県の信濃毎日新聞が報じたところでは、自治会費からの天引き問題が取り上げられたことをきっかけに、返金して強制でない方法に変える自治会も実際に出てきている。声を上げることが変化につながった例だ。

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建前と実態の乖離をどう埋めるか

  • 社会福祉法116条は共同募金を「寄附者の自発的な協力を基礎とする」と定めており、法的には完全に任意
  • 実態は自治会費への上乗せ・班長による戸別徴収・職場集金の3パターンで実質的な強制が行われている
  • 世田谷区議会では行政が自治会を「便利使い」している構造的問題が指摘された
  • 2007年大阪高裁・2008年最高裁で自治会費への上乗せ強制徴収は「思想信条の自由の侵害で公序良俗に反し無効」と確定した
  • 消費者庁は「自治会による強制徴収は不当寄附勧誘防止法に適用される可能性が高い」と回答している
  • 断ることは法的に完全に可能であり、断ったことを理由に不利益を受けてはならない

コメント

  1. 佐藤一男 より:

    後期高齢者年金生活者でも募金に協力しないといけないのか

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