「赤い羽根に募金すると中抜きされる」——ネット上でこの言葉が広く拡散している。批判の根拠は何か。実態はどうなのか。本記事では批判の中身を4つに分解し、それぞれの事実と誤解を丁寧に検証する。
「中抜き」批判の正体——4つの異なる問題が混在している
ネット上で「中抜き」と言われる場合、実は全く異なる4種類の批判が混在している。これを混同したまま語ることで、議論が噛み合わなくなっている。
① 事務費・人件費が高い問題 募金が助成先に届く前に、共同募金会の運営費として差し引かれるのではないかという疑念。「中抜き」という言葉が最もよく当てはまる批判。
② 使途の不透明問題 どの団体にいくら渡ったかが見えにくいという批判。都道府県によって情報公開の水準に大きな差がある。
③ 強制徴収問題 自治会費に上乗せされる形で半強制的に集められることへの不満。任意のはずが任意でない実態。
④ 助成先への疑問 Colabo・ぱっぷす・若草プロジェクト・クルド人支援団体など、「なぜここに助成するのか」という助成先そのものへの批判。
これら4つはそれぞれ性質がまったく異なる問題だ。まとめて「中抜き」という言葉で語られることで、何が本当に問題なのかが見えにくくなっている。
① 事務費の実態——何%が引かれるのか
まず最も多く問われる「事務費問題」を数字で検証する。
令和4年度(2022年度)の全国共同募金総額は約168億円で、同年度の全国助成総額は約143億円だった(中央共同募金会年次報告書より)。差額の約25億円が事務費・募金活動費・準備金積立などに充てられた計算になる。単純計算で約15%が助成以外に使われていることになる。
出典:中央共同募金会 令和4年度年次報告書
ただしこの数字には注意が必要だ。「その他」には準備金(災害時に備えた積立金)も含まれており、純粋な事務費だけではない。また、多くの都道府県では市区町村の共同募金分会の事務を社会福祉協議会の職員が担っており、その人件費は共同募金から出ていないケースもある。純粋な管理費は10%前後という見方もある。
国際NGOの一般的な運営費比率は20%前後とされており、それと比較すると10〜15%は特別高い水準とは言えない。一方で、都道府県によって格差があり、詳細な内訳を公開していない組織も存在する点は問題だ。
② Colabo・WBPC問題——「中抜き」ではなく「助成先の妥当性」の問題
2023年に大きく話題になったColaboやWBPC(若年被害女性等支援4団体)への助成問題は、「中抜き」とは別の問題だ。事実関係を整理する。
赤い羽根からWBPC4団体への助成の実態は以下の通りだ。
| 団体 | 助成元 | 金額 | 期間 |
|---|---|---|---|
| Colabo | 赤い羽根福祉基金 | 2,680万円 | 2018〜2020年度 |
| ぱっぷす | 赤い羽根福祉基金 | 3,000万円 | 2020〜2022年度 |
| 若草プロジェクト | 赤い羽根福祉基金 | 1,000万円 | 2020年度 |
| BONDプロジェクト | 赤い羽根共同募金 | 1,422万円 | 複数年 |
出典:中央共同募金会公式サイト、各種公開情報より
中央共同募金会は2023年1月10日、Colaboとぱっぷすへのプレスリリースで「助成は赤い羽根福祉基金によるものであり、赤い羽根共同募金(いわゆる赤い羽根募金)による助成ではない」と説明した。しかしこの説明は批判を収めるどころか、若草プロジェクトとBONDへの助成に触れていないとして「説明が不十分」とさらに炎上した。
重要なのは、これらは「途中でお金が消えた」のではなく「お金は届いているが、届いた先が適切かどうか」という問題だ。本来の「中抜き」とは別の議論として整理すべきだ。また、2016〜2022年の赤い羽根福祉基金の最高額(1,000万円)の助成10件のうち、Colabo・ぱっぷす・若草プロジェクトの3団体だけで5件(50%)を占めていたという指摘もある。
③ 強制徴収問題——裁判で違法とされた慣行が今も続く
赤い羽根共同募金について最も根強い批判の一つが「任意のはずなのに強制されている」という問題だ。
社会福祉法第116条は「共同募金は、寄附者の自発的な協力を基礎とするものでなければならない」と明記している。しかし現実には、自治会費に上乗せする形で一律徴収している自治会が全国に多数存在する。
2007年8月24日、大阪高等裁判所は滋賀県甲賀市の自治会が赤い羽根共同募金等を自治会費に上乗せして強制徴収するとした決議について、「会員の思想信条の自由を侵害するものであり、公序良俗に反し無効」と判決を下した(平成18年(ネ)第3446号)。翌2008年4月3日、最高裁判所も上告を棄却し、この判決が確定した。
裁判所が特に指摘したのは以下の3点だ。
- 自治会には様々な価値観を持つ会員が存在するのに、それを無視して会費化して一律に募金の協力を強制することは思想信条の自由の侵害にあたる
- 自治会は強制加入団体ではないが、地域住民の日常生活に不可欠な存在であり、事実上脱退の自由が制限されている
- 募金を納付しなければ自治会から脱退を迫られる恐れもあり、居住の自由も侵害しうる
この判決から約20年が経つ。しかし全国では今も自治会を通じた強制的な集金慣行が続いており、各地で問題が報告されている。法的に無効とされた慣行が温存されているという点は、正当な批判だ。
④ 本当に問題と言えるのはどこか——透明性の格差と選考プロセス
批判を整理すると、「中抜き」という言葉は厳密には不正確だが、以下の点は正当な問題提起として残る。
透明性の都道府県格差 助成先の詳細・金額・事業内容の公開水準は都道府県によって大きく異なる。詳細データをウェブで検索可能な形で公開している県もあれば、概要しか公表しない県もある。当サイトが集計したはねっとのデータでも、掲載情報の充実度には大きな差がある。
助成先選考プロセスが見えない 配分委員会の委員名・審査基準・落選理由などはほとんど公開されていない。赤い羽根福祉基金については2016〜2022年の間に全1,567件の助成を行っているが、なぜ特定の団体が最高額(1,000万円)の助成を複数回受けられるのかの選考根拠は公開されていない。誰がどう決めているかが不透明なまま億単位の資金が動いている。
横領という「本物の中抜き」 2026年6月に発覚した北海道共同募金会の1億8,000万円横領事件は、真の意味での「途中で消えた」ケースだ。これは制度の問題ではなく犯罪だが、1人管理体制という構造的欠陥が背景にあり、他の都道府県でも同様のリスクが存在する可能性がある。中央共同募金会は全国一斉の経理体制点検を表明しているが、その結果は公表されていない。
まとめ——「中抜き」という言葉の正確な使い方
- 「中抜き」という言葉は4種類の異なる批判が混在しており、それぞれ別個に評価すべきだ
- 管理費の実態は10〜15%程度で、国際基準と比べて特に高い水準ではない
- Colabo・WBPCへの助成問題は「中抜き」ではなく「助成先選考の透明性」の問題
- 自治会費への上乗せ強制は2008年に最高裁で違法が確定したが、慣行は今も続いている
- 北海道横領事件は真の意味での「中抜き(横領)」であり、1人管理体制という構造的問題が背景にある
- 透明性の都道府県格差と選考プロセスの不透明さは正当な批判として残る

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