監査があったのに、なぜ気づけなかったのか。共同募金会「3層監査」の限界
「外部の会計士が監査しているのに、なぜ気づかなかったのか」——2026年6月に発覚した北海道共同募金会の1億8,000万円横領事件を受けて、多くの人がこの疑問を抱いた。答えは「監査制度には構造的な限界がある」という事実にある。本記事では共同募金会の監査制度の全体像と、その限界を解説する。
共同募金会の監査制度——3つの層がある
共同募金会(社会福祉法人)には、大きく3種類の監査が存在する。
共同募金会の監査制度の3層構造
(内部)
(税理士等)
(都道府県)
出典:社会福祉法・厚生労働省指導監査ガイドライン等
北海道共同募金会の年間収益は6〜7億円規模であり、法定の会計監査人(公認会計士・監査法人)設置義務(収益30億円超)の対象外だ。税理士による外部監査は受けていたが、これは法定監査より要件が緩い任意監査に近い位置づけとなる。
外部監査が見抜けない3つの理由
では、外部監査があったにもかかわらずなぜ6年間見抜けなかったのか。構造的な理由が3つある。
① 年度末一時借入で帳簿の穴が塞がれる
外部監査は基本的に年度末の決算書類を照合する作業だ。年度末に業者から一時的に金銭を借り入れて口座残高を正常に見せ、年度をまたいでから返済するという手口は、単年度の帳簿だけを見ても「正常」と判断される。北海道の事件で使われた「業者からの一時借入」という手口は、まさにこの監査の盲点を突いたものだ。
② 法人側が用意した資料しか見ない
監査は提出された資料に基づいて行われる。監事(税理士等)は社会福祉法上の調査権を持つが、実務上は「法人側が事前に用意した資料の範囲で終了することがほとんど」(兵庫県社会福祉法人監事の手引)とされている。1人管理体制では、用意する資料を操作することも容易だ。
③ サンプル検査が前提で全件確認ではない
監査は限られた時間の中で実施される抜き打ち検査に近い性格を持つ。公認会計士による監査でも、すべての取引を確認するわけではなく、リスクが高いと判断した領域を重点的に確認するサンプリング手法が基本だ。「監査は不正を捜す警察ではなく、不正が起きにくい仕組みの確認」というのが監査の基本的な位置づけであり、巧妙な不正を発見することを主目的としていない。
簿外処理という最大の死角
北海道の事件では「偽の議事録を作成して金融機関から借入」という手口が使われた。これは簿外債務、すなわち帳簿に記載されない債務だ。
通常の監査は提出された帳簿・証憑(領収書等)を照合する作業だ。帳簿に載っていないものは、原理的に照合のしようがない。国税局の査察が入り、経理資料が差し押さえられて初めて「帳簿残高と実際の預金残高に相当額の差異がある」ことが判明した——これは、外部の目が帳簿に依存しない形でアクセスして初めて発覚したことを意味する。
簿外処理が存在する限り、どれほど丁寧な帳簿監査を実施しても横領を発見することはできない。これが外部監査の本質的な限界だ。
行政の指導監査の限界
都道府県による指導監査(一般監査)は、原則3年に1回の実施だ。しかも「事前提出資料」をもとに実施される性格が強く、問題がなければ5年に1回に延長することもできる。特別監査は「運営等に重大な問題を疑うに足りる理由がある場合」にのみ実施される。
つまり問題が表面化していない限り、行政の目が深く入ることはない。今回も行政監査ではなく国税局の査察が発端になったという事実が、行政監査の限界を端的に示している。
監査を機能させるために必要なこと
外部監査の限界を踏まえると、横領を防ぐためには監査頼みではなく、日常的な内部統制を構築することが本質的な解決策だ。
- 通帳と印鑑の分離管理 同一人物が通帳と印鑑を同時に保管できない体制にする
- 理事会による残高直接確認 担当者を介さず理事が金融機関残高を直接確認する仕組みを定期的に実施する
- 複数人による相互チェック 振込実行に複数人の承認を必要とするルールを設ける
- 経理担当の定期ローテーション 同一担当者の長期在任による属人化を防ぐ
中央共同募金会は北海道の事件を受けて全国の都道府県共同募金会に経理事務体制の一斉点検を表明した。この点検が表面的な帳簿確認にとどまるか、内部統制の構造的な見直しにまで踏み込むかが、今後の焦点となる。
3層監査があっても防げなかった構造
- 共同募金会の監査は「監事監査」「外部監査」「行政の指導監査」の3層構造だが、いずれも構造的な限界を抱える
- 法定の公認会計士監査義務(収益30億円超)の対象外の法人が多く、多くの共同募金会は税理士による任意監査にとどまる
- 年度末一時借入・資料の法人側管理・サンプリング方式という3つの限界が、単年度帳簿監査の穴となる
- 簿外債務は帳簿監査では原理的に発見できない
- 横領防止の本質は監査強化ではなく日常的な内部統制の構築にある

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