2026年6月、北海道共同募金会が衝撃的な事実を公表した。58歳の男性事務局長が、2020年ごろから約1億8,000万円を横領していた疑いがあるというのだ。しかも6年間、外部監査をかいくぐり続けた。では、その間、道内の福祉施設や障害者支援団体に届くはずだった寄付金はどうなっていたのか。本記事では事件の全容と、実際の助成データをもとにその影響を検証する。
事件の概要
発端は2026年2月17日、札幌国税局による査察だった。事務局長個人の所得税法違反の疑いで経理資料が差し押さえられ、その後の調査で預金口座の残高と帳簿の残高に「相当額の差異」があることが判明した。3月末には助成金が不足する可能性が浮上し、弁護士への調査依頼へ。そして6月15日、北海道共同募金会は公式サイトで事案を公表し、記者会見を開いた。瀬尾英生会長が深く陳謝するとともに、しかるべき時期に会長職を辞する意向を示した。
今年度の福祉事業向け助成金3億4,000万円のうち、少なくとも1億8,000万円が不足していることが確認されている。なお、中央共同募金会も同日付で声明を発表し、全国の都道府県共同募金会に対して経理事務体制の一斉点検を実施すると表明した。
3つの隠蔽工作——なぜ監査を6年間すり抜けたのか
調査を担当した後藤雄則弁護士が会見で明らかにした手口は、大きく3つに分けられる。
3つの隠蔽工作——なぜ監査は見抜けなかったのか
※これらを組み合わせ、年度をまたぐたびに「穴」を埋め、外部監査を6年間すり抜けた
① 業者からの一時借入 年度末に取引業者から一時的に金銭を借り入れ、決算を越えた後に返済する。帳簿上は正常に見える。
② 偽の議事録で金融機関から借入 理事会の承認を得ていないにもかかわらず、承認済みの体裁を整えた議事録を作成。これをもとに金融機関から相当額を借り入れた。
③ 自己口座への送金 自身が管理していたとみられる口座に募金会から送金するなどの行為を繰り返した。
これらが組み合わさることで、年度をまたぐたびに「穴」が埋められ、外部の会計士による監査でも見抜けなかった。加えて、年間6〜7億円に上る寄付金の会計を事務局長1人で管理していたことが、不正を長期化させた最大の要因とされる。
横領された期間、北海道の助成金はどこへ行くはずだったのか
横領が始まったとされる2020年以降のデータを、当サイトが独自に集計した(データ出典:はねっと公開データベース)。
令和3年度(2021年度)から令和6年度(2024年度)の4年間で、北海道共同募金会が道内の福祉団体・施設に助成した総額は約21億5,000万円、件数にして1万2,715件に上る。
出典:はねっと公開データベース(当サイト集計)/横領が始まったとされるR2(2020年度)のデータは非公開のため除く
用途別に見ると、最も多いのが「社会参加・まちづくり支援」で4年合計約11億4,900万円(延べ8,282件)。次いで「日常生活支援」が約5億7,600万円(2,882件)、「その他の地域福祉支援」が約2億5,700万円(1,183件)と続く。
これらの資金が向かう先には、障害者の就労支援、高齢者の見守り活動、子どもの居場所づくりなど、行政の手が届きにくい草の根の福祉活動が含まれる。千歳市の障害者支援センターは「40年ほど前から赤い羽根の助成を受けてきた」と報道で語っており、今回の助成一時停止の影響は広範に及んでいる。
横領されたとされる1億8,000万円は、年間助成総額(約5億3,000万円)の約34%に相当する。3件に1件分の助成が消えた計算だ。
実際に何に助成されていたかは、年度別のデータで確認できる。
組織の対応
北海道共同募金会は会見後、例年4月に行っている助成金の交付を一時停止。事務費の削減や積立金の取り崩しにより、2026年度予定額の約5割を早急に交付する方針を示した。事務局長は懲戒解雇とし、横領の事実が固まり次第、損害賠償請求と刑事告訴を進めるとしている。瀬尾英生会長は「しかるべき時期に会長職を辞する」意向を示した。
これは北海道だけの問題ではない
今回の横領を可能にした「1人管理」という体制は、北海道に限った話ではない。全国47都道府県の共同募金会はそれぞれ独立した社会福祉法人として運営されており、事務局の規模が小さい地方では、経理を特定の職員が一手に担うケースが珍しくない。
実際、2024〜2025年には岩手県でも社会福祉協議会職員による着服が発覚している。「外部監査があれば安全」という前提は、今回の事件で完全に崩れた。中央共同募金会は全国一斉の経理体制点検を表明しているが、その結果がどう公表されるかも注視が必要だ。
当サイト(赤い羽根募金マップ)では、全国47都道府県・2021年度以降の助成先データを公開している。あなたの都道府県の共同募金が何に使われているか、ぜひ確認してほしい。
まとめ
- 北海道共同募金会の事務局長(58)が2020年ごろから約1億8,000万円を横領した疑い
- 手口は「業者からの一時借入」「偽議事録による金融機関借入」「自口座への送金」の3つ
- 1人管理・外部監査の限界が6年間の隠蔽を可能にした
- 横領期間中(R3〜R6)、北海道では約21億5,000万円・1万2,715件の助成が行われていた
- 横領額は年間助成総額の約34%に相当し、道内の福祉施設・支援団体に深刻な影響が出ている
- 同様の1人管理体制は他都道府県にも存在しており、構造的な問題として捉える必要がある