長野県筑北村、常会費に募金を上乗せし住民の訴えで返金

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長野県筑北村、常会費に募金を上乗せし住民の訴えで返金

4項目を常会費に上乗せ

長野県東筑摩郡筑北村の、麻績川沿いに点在する23世帯からなるある常会(自治会)で、赤い羽根共同募金などを常会費に上乗せして徴収していたことが、信濃毎日新聞「声のチカラ」の取材(2021年12月27日掲載)で明らかになった。

感染症対策で秋祭りやスポーツ大会の慰労会などが中止になり、浮いた予算を募金や寄付金に回すことを常会は決めた。常会費(年8,000円)とは別に、次の4項目を「目安」として各世帯から一律に集め、常会が代わって納めた。

  • 赤い羽根共同募金:1,000円
  • 緑の募金:150円
  • 日赤活動資金:500円
  • 村社協会費:1,000円

4項目の合計は1世帯あたり2,650円になる。

反発した住民には返金

この額は村の共同募金委員会や社協が示した目安額だという。総会では異論がなかったと常会長は説明するが、後日配布された文書でこれを知った住民の一人は、募金するかしないかを含めて個人の自由意思に基づくべきだと反発し、辞退と返金を申し出た。常会側はこれに応じている。

募金の依頼が常会に届くまで

県共同募金会から常会への経路

社会福祉法第116条は「共同募金は、寄附者の自発的な協力を基礎とするものでなければならない」と定める。制度上、赤い羽根共同募金はあくまで任意の寄付だ。

しかし集金の実務は、都道府県共同募金会から市町村ごとの下部組織(支会・分会)を経て、自治会・町内会に依頼が下りる形をとる。長野県内では、県共同募金会が77市町村の下部組織を通じて依頼し、緑の募金は県緑の基金が県や市町村と連携して依頼、日赤の活動資金は市町村の役場や社協の窓口を通じて依頼される。いずれも建前は任意の「お願い」だが、実際に世帯を回って集めるのは自治会の班長・組長であることが多い。

戸別募金が7割超を占める

厚生労働省が2007年にまとめた資料によれば、平成18年度の全国の募金実績額(約217億円)のうち、7割以上を「戸別募金」(自治会・町内会の協力による世帯ごとの募金)が占めていた。法人募金は約1割、職域募金は約4%、街頭募金は約2%にとどまる。

同じ資料は、共同募金会の市町村単位の内部組織(支会・分会)の9割以上が市区町村社会福祉協議会に設置されているとも記している。この構図の中で、実際に住民から現金を受け取る役目は、社協でも共同募金会でもなく、自治会の役員に集中しやすい。

判例が示した線引き

自治会費への上乗せが争われた事案

自治会費への募金の上乗せをめぐっては、先例がある。滋賀県甲賀市甲南町の「希望ケ丘自治会」(約940世帯)は、班長・組長が各戸を訪問して募金を集める負担を理由に、2006年3月の総会で決議した。

年会費6,000円に募金・寄付金分2,000円を上乗せし、8,000円を徴収する内容だ。上乗せ分は地元の教育後援会、赤い羽根共同募金会、緑化推進委員会、社会福祉協議会、日本赤十字社、滋賀県共同募金会への募金・寄付に充てるとしていた。

これに対し一部住民が、思想・良心の自由(憲法19条)の侵害を理由に決議の無効確認を求めて提訴した。

一審から最高裁までの判断

一審の大津地方裁判所(2006年11月27日)は、募金対象が政治や宗教に関わるものではなく、負担金額も過大ではないとして、決議は公序良俗に反しないと判断した。

控訴審の大阪高等裁判所(2007年8月24日)はこれを覆した。募金・寄付金は本来すべて任意に行われるべきものであり、集金の負担解消を理由に会費化して一律に協力を求めること自体、様々な価値観を持つ会員の存在を無視するものであり、募金の趣旨にも反すると指摘した。

さらに、この自治会は未加入者がごみステーションを利用できないなど、事実上脱退の自由が制限された「会員の生活上不可欠な存在」であるとし、募金の徴収は社会的に許容される限度を超えると判示して、一審判決を取り消した。最高裁判所第一小法廷は2008年4月3日、自治会側の上告を棄却する決定をし、この大阪高裁判決が確定した。

筑北村の事例との共通点と相違点

筑北村の常会が上乗せの理由に挙げた「集金の手間を省く」という事情は、甲南町の自治会が上乗せに踏み切った理由と共通する。一方で、筑北村の常会は反対した住民に返金しており、この点は甲南町の事案とは異なる。

関西大学の西村枝美教授(憲法)は取材に対し、常会の対応について「住民の思想良心の自由を侵害し、違法と判断される恐れがある」と述べた。そのうえで、集金の負担が大きい実情には理解を示し、「集める側が『何としてでも集めなきゃ』という風になってはならない」「どうすれば強制せずに集められるか、解決方法を探る努力こそが大事」と指摘している。

この記事は、常会(自治会)が募金を会費に上乗せして集めた1つの事例と、先例となった判例を紹介するものであり、筑北村や当該常会の対応が違法であると認定するものではない。

公表資料から見える筑北村の募金

目標額・実績額・配分額の推移

長野県共同募金会が公表している運動結果報告から、筑北村(支会)の目標額・実績額・地域への配分額を、記事の年度(令和3年度)と直近の令和7年度で並べた。

1,411,384円
令和3年度 一般募金実績額
1,173,384円
令和3年度 地域配分額
1,294,963円
令和7年度 一般募金実績額
1,104,963円
令和7年度 地域配分額
項目 令和3年度 令和7年度
目標額 1,481,000円 1,337,000円
一般募金実績額 1,411,384円 1,294,963円
地域配分額 1,173,384円 1,104,963円


筑北村は両年度とも目標額を下回ったものの、達成率はおおむね95〜97%で推移している。

実績額と配分額の差

実績額から地域配分額への差は、令和3年度が23万8千円、令和7年度が19万円で、いずれもきりのよい額だ。この差がどのような費目に充てられているかは、支会単位の公表資料からは読み取れない。募金運動には推進経費や県共募への拠出分もあるため、実績額の一部が村域外に回ること自体は制度上の仕組みだが、その内訳を市町村ごとに公表している資料は見当たらなかった。

常会1つ分の規模

記事に登場する常会は23世帯で、1世帯あたり1,000円の赤い羽根共同募金分を集めていた。単純計算では常会1つ分は23,000円で、これは令和3年度の村の実績額の1.6%程度にあたる(筆者算出)。

この常会が村全体の中でどの程度の比重を占めるのか、また同様の集め方をしている常会が村内に他にいくつあるのかは、公表資料からは分からない。

公表資料からわからないこと

長野県共同募金会の支会別実績は、戸別募金・法人募金・街頭募金といった募金方法別の内訳までは示していない。そのため、筑北村の実績のうちどれだけが自治会・常会経由で集められたものかは、この資料だけでは特定できない。また、1世帯あたりの目安額がどのような根拠で示されているか、記事の掲載後に村や社協、常会側がどう対応したかについても、確認できる公表資料は見当たらなかった。

筑北村での配分の使いみちは、赤い羽根データベース「はねっと」で確認できる。

配分先の確認

筑北村を含む長野県内の助成先ごとの配分内容は、配分先一覧で市町村ごとに検索できる。

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